(平成15年1月)No.46

年 頭 所 感

 
 

西部金属熱処理工業協同組合 理事長    
(株)東洋金属熱錬工業所
代表取締役社長   川嵜 勝史

 
 
   新年明けましておめでとうございます。理事長を拝命して早や丸2年を経過しようとしています。この間、非力な運営にもかかわらず、役員、会員、賛助会員の皆様には格別のご協力とご支援を賜りまして誠に有難うございます。今年も引き続き宜しくお願いいたします。
 さて、本稿では作今、躍進著しいが、実像と虚像が交差する中国と日中関係について述べて年頭の挨拶にしたい。
 昨年11月熱処理専業者20人のチームに参加させてもらって、中国のローカルの熱処理関連企業を見学した、上海を中心に江蘇省、せっこう省をめぐり、企業5社を見学しました。その結果、参加者の大方の感想は熱処理技術、品質管理、生産管理技術はいまいちだが、近い将来キャチアップするのではないか。決して油断は出来ないという思いであった。この見学の報告書は近いうちに公表されるので、興味のある方はご一読いただきたい。
 結論から言って、日中関係は共存共栄、相互補完し合う関係にならねばならない。しかし、それには日本が中国に対して言うべきことは言い、しっかりした政治的スタンスを持つことが重要である。日本の政治は、国家像のハッキリした政策を競い合う二大政党に早く脱皮し、骨格の確かな国になることが第一である。東西冷戦の時代はアメリカによって敷かれた戦後政策に則って経済分野のみに専心していけばよかったがこれからは政治、経済、社会、文化を総合的に考えて行動しないと世界に評価されないし、中国との良好な関係を築くことはできない。一方中国も世界のルールに則るように政治経済の改革をしてもらわねばならない。
 われわれの前には常に中国経済脅威論と脆弱論の両輪が混在しており、そして両輪とも極端な形で現実の問題になると、われわれは困るのである。そこで両輪の内容を見てみよう。まず脅威論は中国の上海や沿岸地域の都市の発展、高層ビルや住宅、道路の建設ラッシュ、数多くの日本企業の中国への進出、さらに家電用品や衣類、日用雑貨品、食料品、食材まで中国品が日本の市場の中に満ち溢れており、その品質は向上し、価格は格安である。
  これは一過性もものではなく今後もエンドレスに続くらしい。品質にはこれからもますます磨きが掛かり、日本が得意としていた分野の製品まで広がっていくのではないか。昨秋発表された中国の経済統計によると、中国の輪出額の向け先のトップはアメリカから、昨年はじめて日本に変わった。
  今は中国の産業の地域は上海や沿岸部の一部の発展に留まっているが、今後は内陸部の開発に進んでいくことになっている。中国の13億の人口のうち9億は農業人口であり、この部門の生産性は極めて低く、低所得でその上、過剰労働人口である。このところ敏沿岸部の企業の発展はすばらしいが、そこで働く労働者の賃金は日本の25分の1、エンジニアは13分の1、管理職で10分の1、そして農業という低生産部門を中心にした過剰労働力の故に工場労働者は常に買手市場の立場に置かれ、賃金は上がらない。この状態はこの低生産部門の農業就業者が高生産性部門を求めての移動が止まるまで何十年続くか分からない。中国の工場労働者は低賃金でも、ハングリー精神が横溢しており、向学心強く勤勉であるので技術の習得は早い。従って良質で安価な製品を海外に輪出し、国際競争力でも圧倒的な力を発揮するであろう。
  一方中国経済脆弱論は、中国から発信せられる情報は人民日報を初め中国のマスコミは言論の自由はなく、一党独裁の反対政党の存在を許さない体制であるので、ありていに言って共産党の宣伝広告である。政府の発表する数字も恣意的なものが多く信頼性にかける。中国経済の光の部分は大きく報道されるが、影の部分の報道は規制がかかる。脆弱論の一番に指摘される点は政治体制の問題である。共産党の一党独裁がどこまで続くか経済は市場経済を標榜しているが、世界の常識からいえば真の市場経済に移行し発展していくには政治体制も民主政治体制でなければならない。再び天安門事件のような騒擾事件を起こさず反対野党も許す民主体制国家に平和裏に移行できるのか。かかる意味からも2002年11月の第16回共産党大会において、共産党の中に従来の農民、労働者代表に加えて経営者代表が参加することになったのは注目に値する。次に大きな問題は中国人民の70%が農業部門に属しているがこの部門の労働生産性を上げないと中国の進の近代化はない。しかし農業の近代化とそれによって生まれるであろう過剰労働力を吸収する産業部門が育たない限り、農業の近代化は生き詰まるのではないか。次なる問題は環境問題である。インフラの未整備な段階から急速に経済発展した中国は大気汚染、水の汚染、産業廃棄物問題などの環境問題も深刻である。次に1人子政策の結果、やがて起こってくる急速な高齢者偏重の人口構成は、医療費、年金問題につながってくる。このような問題の一つ一つはいずれも大変な問題ばかりでやがて中国はこれらの問題にぶち当たり成長にも競争力にも限界が見えてくるのではないか。
  以上のような脅威論と脆弱論の狭間に日本は立っている。そしてこの両方のいずれにしても、それが極端な形で出てくるのは困るのである。やはりわれわれが望むのは日本の政治スタンスがしっかりしていること、一方中国側には政治体制の民主化が促進され政治経済両面から世界のルールに合う体制へ移行する努力をしてもらうことである。その意味からこのたびの中国のWTO加盟は歓迎されるべき事である。今後は名実ともに内容が履行される事を期待したい。中国経済が順調に成長し、中国が豊かになれば隣国日本としては買ってもらえる製品、設備、部材も増えるだろうし日本への観光客も飛躍的に増えるに違いない。品質の良い安い製品はわれわれの生活を豊かにしてくれる。従ってわれわれは日中貿易にしろ、海外生産にしろバランスよく発展することを望みたい。日本の海外生産も10年前の7%から14%に急上昇した。製造業が空洞化して貿易赤字に悩んでいるアメリカの海外生産比率は20%を超えていると言われているが、日本も今のピッチで行けば早晩アメリカ並になる。資源も基軸通貨もなく、軍事力にも制約の多い日本がそれで国益を守って行けるのか。グローバル化による世界競争も礼賛や傍観だけでなく、国益と調和を志向しつつ、日中の共存共栄、相互補完関係の構築を相互に目指すべきである。
  以上結論は常識論に終わってしまったが、中国とこれからどう向かい合うのかなかなか難しい問題である。地理的でも隣国で、国益のぶつかり合う事も多く、日本人には勇気、忍耐、政治的知恵などが試されるところだが、先ずは等身大の中国を理解することから始めたい。
  最後になりましたが、組合員各社の繁栄と発展を祈念しまして、今年も宜しくお願いする次第です。
 
 
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