(平成16年4月)No.52
最近の雇用情勢に関して思うこと

 
 

日本パーカライジング
      伊丹工場長 松村由男

 
 
 

 今年は桜の開花も早く、例年より早く春が来るらしい。関西の熱処理業界も春爛漫といった感じ で、こなしきれないほどの仕事を抱え、すこぶる好調な会社が多いと聞き及んでいる。バブルの崩 壊とその後の景気低迷を忘れさせてくれるような回復振りである。対米輸出の好調さもさることな がら、特に関西地区に於いては、年率7%を超える中国の経済成長が好景気の駆動力となっている。 そんななかで我々の生活はどうなっているのだろう。雇用は安定したのだろうか。みんな生きがい のある仕事に就いているのだろうか。
 小泉内閣は、高い支持率を得て、全ての施策が順調に機能し実を結びかけていると言っているが、 ほんとうにそうだろうか。「骨太の改革」と銘打ち構造改革に取り組む姿勢を見せたが、痛みを伴う部分だけが先行していないのか。熱処理現場はほんの十数年前には、3K職場と言われ今後働き手がいなくなってしまうと言っていたのが、今は求人に事欠くような事はない。しかしそれは日本の失業率がバブル以降急上昇し、現在も5%という非常に高い値を維持しているからである。企業収益も空前の高収益となっているが、新規採用を手控え、リストラにより経費の削減を行ってきた中で受注環境が好転したことに負う部分が大きい。国の施策よりも民間の改革が奏功したのであり、本来分かち合う筈の「痛み」も、リストラの対象になったり、大手企業から採用されなかったりした、中高年や若年労働者に集中したのではないのか。現場で直接、求人や採用に関与するに連れて、今の日本の状況は何かおかしいなという気にさせられるのである。
 製造現場での請負作業は恒常化している。アウトソーシングといえば聞こえはいいが、要は人材派遣会社を使った人件費抑制である。熱処理現場の労働集約的な部分は、このような方法でないとコスト的にやっていけない。付加価値の低い仕事は、人件費の低い人にやってもらわざるを得ないのである。換言すれば、労働生産性を高める事を怠り、安易に安い労働力を求めているのである。採用される側もその点は判っているが、結果として今まで以上に収入の格差が広がっていく。一億総中流と言われた日本の社会は、同じ工場で働く者であっても中流の下に新たに「下流層」を作ってしまった。
 このような変化は国の年金制度や税収にも大きく影響するであろうが、大学受験なども今までより競争がさらに激化していくのではないかと予想される。人生の勝ち組と負け組が早い時点で試験の点数だけで決まってしまうようなシステムは、個々人のさまざまな能力形成を阻害するものである。また、中高年のリストラ組にはまともな仕事がなく、低賃金の補助的な仕事に甘んぜざるを得なるのも、なんともやりきれないものである。零細企業が大企業の下請けとして日本経済を支えてきたように、ひとつの会社の中でも派遣労働者が社員の生活を支える構図が浮かび上がってくる。単な役割分担では済まされない関係が築かれてきている。このような世界は日本国民が期待した構造改革の結果とはかけ離れているのではないか。
  また、公務員に代表される官は、民間と比べバランスシートが赤字の自治体であっても多数の職員を雇用し、多額の給与と退職金を支払い続けている。民間の赤字会社の努力とは別世界の様相であり、かつ過去の赤字事業に関しても誰が責任を取るわけでもない。いっそのこと、役所ごと、議会ごと民間にアウトソースしてはいかがなものであろうか。官民格差に憤りを覚える人は多いが、実態がつまびらかにならないとともに格差も一向に改善される気配はない。
 国民の期待は、安定した雇用に裏打ちされた生きがいのある生活を作ることである。年金や医療費の問題も安心できる生活には欠かせないものだ。ところが現実には、国の根幹をなす仕組みはその問題を先送りしているだけで、さまざまな格差が拡大してゆき、人々の不満と不安は膨張し続けているのである。戦後国民一丸となって築き上げた日本の繁栄はしょせんその程度のものであったということか。社会に潜むさまざまな不満はそのはけ口を探して、あちらこちらを彷徨っている。解決の糸口はなかなか見えてこない。 

 
 
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